75歳以上の医療費の窓口負担と保険料に株の配当・売却益が反映へ|2029年8月から(予定)|申告しないほうが得だった方は要注意
75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、医療機関の窓口で払う割合(1割・2割・3割)や保険料が、住民税の計算に使う所得をもとに決まります。これまで、株の配当などは確定申告をしなければ、この判定に入らないしくみでした。
2026年(令和8年)5月に成立した法律により、今後は確定申告をしていなくても、株の配当や売却益などが窓口負担や保険料に反映されることになりました。厚生労働省の資料(2026年10月16日)では、2029年8月から始める予定です。
<この記事の監修者>

吉本 貴幸(よしもと たかゆき)
税理士法人吉本事務所
代表社員 税理士・行政書士
1973年生まれ 法学修士。1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に努めている。
この記事のポイント
- 75歳以上の窓口負担の割合や保険料は、住民税の所得で決まります。
- 今は、株の配当などを確定申告しなければ、判定に入りません。申告すると、負担の割合や保険料が上がることがあります。
- 2029年8月から(予定)、金融機関が出す書類(法定調書)の情報を使って、申告していない配当や売却益も反映されます。
- NISA口座で非課税となる配当・売却益や、預貯金の利子は対象外です。
今のしくみ:窓口負担は「住民税の所得」で決まる
後期高齢者医療の窓口負担の割合は、主に次の基準で決まります。保険料の「所得割」は、前年の所得から基礎控除(43万円)を差し引いた額をもとに計算されます。
| 窓口負担 | 主な判定基準 |
|---|---|
| 1割 | 3割・2割のいずれにも当たらない方 |
| 2割 | 3割に当たらず、同じ世帯の被保険者の中に課税所得28万円以上の方がいて、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身で200万円以上(被保険者が2人以上の世帯は合計320万円以上) |
| 3割 | 同じ世帯の被保険者の中に、課税所得145万円以上の方がいる(現役並み所得。ただし収入が一定額未満なら、申請により外れる場合があります) |
なぜ、確定申告すると負担が上がることがあるのか
証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で受け取る株の配当や売却益は、税金が差し引かれて終わり(申告不要)にできます。この場合、その所得は住民税の所得に入らないので、窓口負担や保険料の判定にも入りません。
ところが、配当控除で所得税を少し取り戻すためなどに配当を確定申告すると、その配当は住民税の所得にも入ります。その結果、「年金収入+その他の合計所得金額」が200万円を超えるなどして、窓口負担が1割から2割、2割から3割に上がったり、保険料が上がったりすることがあります。
なお、2023年分の所得(2024年度の住民税)からは、所得税と住民税で配当の申告方法を分けることができなくなっています。所得税だけ申告して住民税は申告しない、という使い分けはできません。
今の対策:申告しないほうがよい場合がある
今のしくみでは、配当を確定申告して戻る所得税より、窓口負担や保険料が増える分のほうが大きい場合は、申告しない(申告不要を選ぶ)ほうが有利になります。確定申告の前に、窓口負担の割合や保険料への影響を試算しておくことが大切です。
2029年8月から(予定):申告しなくても反映されるように
今回の改正で、金融機関などが法定調書(配当や特定口座の取引の報告書)を、後期高齢者医療広域連合にオンラインで出すことになります。後期高齢者医療広域連合は、市町村から届く所得の情報と法定調書の情報を使って、窓口負担の割合の判定や保険料の計算を行います。そのため、「申告しない」ことで負担を抑える方法は使えなくなります。
厚生労働省の資料や専門家の解説では、反映される所得、されない所得は次のように整理されています。
| 所得の種類 | 2029年8月からの扱い(予定) |
|---|---|
| 上場株式の配当(申告不要を選んだ分) | 反映される |
| 特定口座(源泉徴収あり)の株の売却益 | 反映される(厚生労働省の方針。解説記事による) |
| 特定公社債の利子など | 反映される(解説記事による) |
| NISA口座で非課税となる配当・売却益 | 反映されない(非課税のため) |
| 預貯金の利子 | 反映されない |
| 預貯金や株の保有残高 | 反映されない(所得ではないため) |
株を持っているだけで負担が上がるわけではありません。配当や売却益などの所得が出た場合に反映されます。
いつから反映される?
厚生労働省の資料(2026年10月16日 社会保障審議会医療保険部会)では、次のスケジュールが示されています。
- 2029年8月:2028年分の法定調書のうち、毎年1月末に出されるもの(件数で約8割)を反映
- 2030年8月以降:すべての法定調書の金融所得を反映
法律では、公布から5年以内に政令で定める日から始めるとされています。正式な開始日は、今後の政令で決まります。
よくある質問
Q.株を持っているだけで、保険料は上がりますか?
A.上がりません。反映されるのは、配当や売却益などの所得が出た場合です。
Q.NISAで受け取った配当も反映されますか?
A.NISA口座で非課税となる配当や売却益は、対象外です。なお、上場株式の配当をNISAで非課税にするには、証券会社で配当を受け取る方式(株式数比例配分方式)を選んでいる必要があります。
Q.今年の確定申告では、どうすればよいですか?
A.今のしくみでは、配当を申告するかどうかで窓口負担や保険料が変わることがあります。申告前に影響を試算することをおすすめします。
<税理士からのひとこと>
少子化に歯止めがかからないなかで高齢化が進み、医療をはじめとする社会保障の財政は、ますます苦しくなっています。現役世代にかかる負担も増す一方です。消費税も医療を含む社会保障の財源であり、2027年4月から予定されている飲食料品の消費税率の引下げを進めるにあたっては、その財源をどう補うかも課題になります。
今回の改正は、同じ金融所得があっても、確定申告をするかどうかで窓口負担や保険料が変わる不公平を正すものです。所得に応じた負担のあり方として、注目すべき見直しです。
当事務所では、75歳以上のお客さまの確定申告で配当を申告するかどうかは、窓口負担や保険料への影響を試算したうえで判断しています。今回の改正で特に影響が大きいのは、特定口座の売却益も反映される点です。
まとめ
- 75歳以上の窓口負担や保険料は、住民税の所得で決まります。今は、配当などを申告しなければ判定に入りません。
- 2029年8月から(予定)、申告していない配当や特定口座の売却益なども反映されます。
- NISA口座で非課税となる配当・売却益や預貯金の利子は対象外です。
- それまでは、申告するかどうかで負担が変わることがあるので、申告前の試算が大切です。
ご両親の確定申告や、金融資産の持ち方について気になる方は、ご相談ください。
参考:厚生労働省資料
※2026年10月19日現在の公表資料に基づく一般的な説明です。制度の詳細や開始日は、今後の政令などで決まります。分かりやすさを優先して表現を簡略化しているため、実際の適用には細かい条件があります。個別の事情により取扱いが異なる場合があります。
