事業承継税制の計画提出期限が延長|令和8年度税制改正のポイントと注意点
令和8年度税制改正により、非上場株式等や個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度(いわゆる「事業承継税制」)で、特例を受けるために必要な計画の提出期限が延長されました。ただし、特例の対象となる贈与・相続の期限は延長されていません。改正の内容と、これから検討する経営者の方が押さえておきたい点を解説します。
事業承継税制とは
事業承継税制は、後継者が先代経営者から贈与や相続で取得した会社の株式(非上場株式等)や、個人事業の事業用資産について、一定の要件の下で贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。会社向けの「法人版」と、個人事業者向けの「個人版」があります。
法人版には「一般措置」と、平成30年度税制改正で創設された「特例措置」があります。特例措置は一般措置より有利な内容ですが、期限のある時限措置です。
| 一般措置 | 特例措置(時限措置) | |
|---|---|---|
| 猶予対象株式数 | 総株式数の最大3分の2まで | 上限なし |
| 猶予割合 | 相続税80%、贈与税100% | 相続税・贈与税ともに100% |
| 承継パターン | 複数株主から1名の後継者に承継可能 | 複数株主から最大3名の後継者に承継可能 |
| 雇用確保要件 | 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 | 未達成の場合でも猶予継続可能(※) |
| 適用期限 | なし | 令和9年12月31日までの贈与・相続等 |
※経営状況の悪化等を理由に5年間の平均が8割を満たせなかった場合には、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けることが必要です。
改正(1) 法人版:特例承継計画の提出期限が令和9年9月30日まで延長
法人版の特例措置を受けるには、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて「特例承継計画」を作成し、令和8年3月31日までに都道府県知事の確認を受ける必要がありました。
令和8年度税制改正では、この提出期限が令和9年9月30日まで1年6か月延長されました(令和8年4月1日施行)。提出期限は、新型コロナウイルス感染症の影響等を受けて令和4年度改正で1年、令和6年度改正で2年延長されており、今回で3度目の延長です。
改正(2) 個人版:個人事業承継計画の提出期限が令和10年9月30日まで延長
個人版事業承継税制についても、法人版の延長にあわせて「個人事業承継計画」の提出期限が令和8年3月31日から令和10年9月30日まで2年6か月延長されました。
個人版の対象となるのは、土地(400㎡まで)、建物(800㎡まで)、機械・器具備品、車両運搬具、生物(乳牛等、果樹等)、無形償却資産(特許権等)など、事業を行うために必要な事業用資産です。
注意:贈与・相続の期限は延長されていません
今回延長されたのは、あくまで計画の提出期限です。特例の対象となる贈与・相続等の期限は、次のとおり変わっていません。
- 法人版(特例措置):令和9年12月31日までの贈与・相続等
- 個人版:令和10年12月31日までの贈与・相続等
法人版の場合、計画の提出期限(令和9年9月30日)から贈与・相続等の期限(令和9年12月31日)までは約3か月しかありません。計画の作成には支援機関の関与が必要なため、早めの準備が大切です。
なお、令和9年12月31日までとされている法人版特例措置の期限後のあり方については、令和9年度税制改正において結論を得ることが令和8年度与党税制改正大綱で示されています。現時点では、期限後の取扱いは決まっていません。
個人版を使う方は青色申告の方法にも注意
個人版事業承継税制では、対象となる事業用資産が、先代事業者と後継者それぞれの青色申告書の貸借対照表に計上されていることが要件の一つです。
令和8年度税制改正で青色申告特別控除が見直されたことに伴い、令和9年分以後の所得税については、控除額65万円(複式簿記+電子申告)または75万円(複式簿記+電子申告+優良電子帳簿等)の青色申告書であることが必要になります。複式簿記でも書面申告(控除額10万円)の場合は対象外です。
すでに個人版の適用を受けている方については、改正前の基準(複式簿記であれば電子申告でなくても可)となるよう経過措置が設けられています。
あわせて延長された相続税・贈与税の制度
- 医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等:適用期限が令和11年12月31日まで3年延長
- 農地等の納税猶予に係る利子税の特例(収用交換等により譲渡した場合に利子税を全額免除する措置):適用期限が令和13年3月31日まで5年延長
まとめ
事業承継税制は、計画の作成、都道府県への認定申請、税務申告、その後の継続届出書の提出など、長期にわたって手続きが続く制度です。税務署への継続届出書は、法人版では当初5年間は毎年、その後は3年に1回、個人版では申告期限後3年ごとに提出します。納税猶予が打ち切られる場合には、原則として猶予税額と利子税の納付が必要になります。
計画の提出期限は延びましたが、贈与・相続の期限は変わっていません。制度の利用を検討される場合は、計画の作成に関与する認定経営革新等支援機関(国の認定を受けた税理士や金融機関など)に、早めに相談されることをおすすめします。
参考資料:財務省資料(令和8年度 税制改正の解説) / 国税庁資料
※2026年9月29日現在の法令・公表資料に基づく一般的な説明です。個別の事情により取扱いが異なる場合があります。
