マンション建替え・一括売却の税金特例とは?1,500万円控除の要件と令和8年度改正
古くなったマンションで、建替えや、マンションと敷地をまとめて売る話が持ち上がったとき、気になるのが税金です。
2026年4月から、マンションの法律が変わり、建替え以外の方法でもマンションを再生しやすくなりました。これに合わせて、令和8年度(2026年度)の税制改正で、税金の特例も新しい方法で使えるようになりました。
<この記事の監修者>

吉本 貴幸(よしもと たかゆき)
税理士法人吉本事務所
代表社員 税理士・行政書士
1973年生まれ 法学修士。1998年に現在の税理士法人の前身である個人税理士事務所に入所。2021年10月より現職。法人、個人事業のクライアントや相続税、贈与税の申告に関わる一方、税理士法人関連会社の社会保険労務士事務所、行政書士事務所、保険代理店のマネージメントにも携わる。経営に関する総合的な知識のもと、税務申告のみならず、事業運営・起業・法人設立のアドバイスも得意とする。税理士法人関連7サイトの総編集長・監修者として、最新の税務情報発信に努めている。
この記事のポイント
- 先に「マンションの法律」が変わり、あとから「税金の法律」が合わせた、という関係です。
- 建替えなどの後も住み続ける人は、部屋を移した時点では税金がかかりません(先送り)。
- 建替えなどに参加せずに出ていく人は、一定の条件を満たすと、土地の部分の売却益から最大1,500万円を差し引けます。
- どれも、法律に基づく建替えや売却の手続きの中で手放す場合の特例です。不動産会社を通じて普通に売る場合は対象外です。
- 対象は2026年4月1日以後の譲渡です。
いま、古いマンションで何が起きているの?
高度経済成長期(昭和30年代〜40年代ごろ)から建てられ始めたマンションが、築40年、50年を超えてきています。
国土交通省によると、全国の分譲マンション約713万戸のうち、築40年以上のものは約148万戸です(2024年末現在)。10年後には約293万戸、20年後には約483万戸に増えると見込まれています。
国の解説によると、マンションでは、建物が古くなることと、持ち主が高齢になることの「2つの老い」が進んでいます。その結果、外壁がはがれ落ちる危険や、持ち主どうしの話し合いがまとまりにくいといった課題が目立ってきました。
こうした状況を踏まえて、マンションの法律が改正されました。
何の法律が変わったの?
今回の改正には、2種類の法律が関係しています。
(1)マンションのルールを決める法律(税金の法律ではありません)
- 区分所有法:マンションの持ち主どうしの決まりごとを定めた法律です。建替えに何人の賛成が必要か、などを決めています。
- マンション建替法:建替えの進め方(手続き)を定めた法律です。今回の改正で「マンション再生法」に名前が変わりました。
この2つが改正され、2026年4月1日から、建替えのほかに次のような方法が法律で定められました。
- 一棟リノベーション(建物を壊さずに、建物全体を新しくする。法律上の名前は「マンション更新事業」)
- 再建(災害などでなくなったマンションを建て直す。法律上の名前は「マンション再建事業」)
- 一括建替え(法律上の名前は「マンション一括建替等事業」)
- 建物と敷地をまとめて売る(取り壊してから敷地を売る方法も含みます。法律上の名前は「マンション等売却事業」)
また、耐震性が足りないなどの一定のマンションでは、持ち主と議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成で決められるようになりました。
(2)税金の法律
租税特別措置法には、もともとマンションの建替えなどに使える税金の特例がありました。ただ、対象は「建替え」などに限られていたため、(1)でできた新しい方法でも使えるように、令和8年度の税制改正で対象が広げられました。
場面ごとに使える特例
| 場面 | 使える特例 | どうなる? |
|---|---|---|
| 建替えなどの後も住み続ける(新しい部屋に移る) | 権利変換の特例 | 部屋を移した時点では税金がかからない(将来売るときまで先送り) |
| 建替えなどに参加せず、出ていく | 1,500万円控除 | 土地の部分の売却益から最大1,500万円を差し引ける |
| マンションと敷地をまとめて売る | 税率が下がる特例、または1,500万円控除 | どちらか一方が使える場合がある |
場面1:建替えなどの後も住み続ける場合
建替えでは、古い部屋の権利が、法律の手続き(権利変換)によって新しい部屋の権利に置きかわります。このとき、古い部屋を「売ったことにはならない」扱いになり、その時点では税金がかかりません。税金は、将来その部屋を売るときまで先送りされます。
これまでは建替えだけが対象でしたが、今回の改正で一棟リノベーション、再建、一括建替えも対象になりました。
ただし、新しい部屋の権利と一緒に清算金(お金)を受け取った場合は、そのお金に対応する部分は売ったものとして税金の対象になります。
場面2:建替えなどに参加せず、出ていく場合
建替えなどに参加しないで部屋を手放す場合、次の(1)と(2)の両方に当てはまれば、土地の部分(敷地の持分など)の売却益から最大1,500万円を差し引けます。建物の部分の売却益からは差し引けません。
(1)やむを得ない事情があること(どちらか)
- ご本人や同居のご家族が、高齢や体の障害のために、新しいマンションで生活することが難しい
- マンションが、今の法律の用途の制限に合わない古い建物(既存不適格建築物)である
※事情があることについて、事業の審査委員の過半数の確認が必要です。
(2)法律の手続きで手放すこと(どちらか)
- 新しい部屋をもらわない申出をして、その代わりに補償金を受け取る
- 法律に基づく売渡し請求や買取り請求によって、買い取られる
今回の改正で、この特例も建替えだけでなく、一棟リノベーション、再建、一括建替えが対象になりました。
場面3:マンションと敷地をまとめて売る場合
法律に基づいて、マンションと敷地をまとめて事業者などに売る場合です。次の(1)か(2)が使える場合があります。
(1)税率が下がる特例(優良住宅地の特例)
売った後の土地に、一定の新しいマンションを建てる計画がある場合に使えます。売った年の1月1日時点で5年を超えて持っていた土地なら、売却益のうち2,000万円以下の部分の税率が、所得税と住民税を合わせて20%から14%に下がります(復興特別所得税を含めると20.315%から14.21%)。これまでは、耐震性の不足などで取り壊しが必要と認定された一定のマンションに限られていましたが、法律の改正で、まとめて売る方法がすべてのマンションで使えるようになったことに合わせて、対象が広がりました。
特例のくわしい内容は、住宅地の開発などのために土地を売ると税率が下がる特例(優良住宅地の特例)の記事をご覧ください。
(2)1,500万円控除
避難路の沿道にあって、耐震性が足りないマンション(※)の敷地を売る場合に使えます。これまでは、取り壊しが必要と認定された一定のマンションに限られていましたが、今回の改正で、この認定を受けていないマンションも対象になりました。
※地震で倒れると避難路をふさぐおそれがあるとして、耐震診断が義務付けられている建物です。
ただし、改正後も次の条件はすべて必要です。
- 法律に基づく売却の事業(マンション敷地売却事業、マンション除却敷地売却事業)であること
- 分配金を受け取るか、売渡し請求によって買い取られること
- 事業の計画に、取り壊した後の土地に建てる新しいマンションのことが書かれていること
よくある質問
Q.不動産会社を通じて、自分の部屋を普通に売る場合も使えますか?
A.使えません。この記事の特例は、法律に基づく建替えや売却の手続きの中で手放す場合のものです。ご自宅として住んでいた部屋なら、居住用財産の3,000万円特別控除などが候補になります。
Q.住んでいる部屋を手放す場合、居住用財産の3,000万円特別控除とどう違いますか?
A.主な違いは次のとおりです。
| 1,500万円控除 | 3,000万円特別控除 | |
|---|---|---|
| 対象になる部分 | 土地の部分だけ | 建物と土地の両方 |
| 住んでいる必要 | なし | あり(住まなくなってから3年目の年末までに売る必要があります) |
| 主な条件 | 法律の手続きで手放すこと(建替えなどに参加しないで出ていく場合は、やむを得ない事情も必要) | 配偶者や親子など、特別の関係がある人に売らないこと |
| 自分が住んだことのない部屋(相続した空き部屋など) | 条件を満たせば対象になり得る | 原則として対象外(以前に自分が住んでいた部屋なら、住まなくなってから3年目の年末までに売るなどの条件で対象になり得ます) |
同じ部屋(建物や土地)について両方を使うことはできないので、どちらか一方を選びます。ご自身が住んでいる部屋なら、控除額が大きく建物も対象になる3,000万円特別控除から検討するのが一般的です。相続した空き部屋など、3,000万円特別控除が使えない部屋でも、この記事で説明した条件を満たせば、1,500万円控除を検討できます。
Q.1,500万円控除と、税率が下がる特例は一緒に使えますか?
A.使えません。1,500万円控除を受けると、同じ土地等の譲渡には、税率が下がる特例は使えなくなります。どちらが有利かは、売却益の金額などによって変わるので、個別に比べる必要があります。
Q.相続したマンションの部屋でも使えますか?
A.相続した部屋でも、持ち主として手続きに参加すれば対象になり得ます。相続した不動産は、亡くなった方が取得した時期を引き継ぎます。税率が下がる特例で必要な「5年を超えて持っていたか」は、売った年の1月1日時点で判定します。
なお、相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除(空き家特例)は、マンションの部屋には使えません(相続した部屋でも同じです)。
<税理士からのひとこと>
京都では、マンションの建替えや、まとめて売るといった話は、まだほとんど聞きません。持ち主の高齢化や費用の負担があって、話し合いがなかなかまとまらないのが実情だと思います。
それでも、建替えや売却の話が出たら、手続きが進む前にご相談ください。どの手続きで手放すかによって、使える特例が変わるからです。また、ご自身が住んでいる方は3,000万円控除、貸している部屋や相続した部屋でも、この記事で説明した条件を満たせば1,500万円控除を検討できる、というように、立場によって使える特例も違います。
親御さんが住んでいるマンションで話が出た場合は、将来の相続も見すえて、早めにご家族で話し合っておくことをおすすめします。
まとめ
- マンションの法律が変わり、建替えのほかに一棟リノベーションやまとめて売る方法などができました(2026年4月1日施行)。
- これに合わせて、税金の特例も新しい方法で使えるように広がりました。
- 住み続ける人は税金の先送り、出ていく人は土地の部分の1,500万円控除、まとめて売る場合は税率が下がる特例か1,500万円控除が候補です。
- どの特例も、法律に基づく手続きの中で手放すことが条件です。1,500万円控除や税率が下がる特例を使うには、原則として、事業者などから受け取る証明書類を付けて確定申告をする必要があります(住み続ける場合の「売ったことにならない」扱いは、申告しなくても適用されます)。
マンションで建替えや売却の話が出たら、手続きが進む前の早い段階で、税理士にご相談ください。
参考:財務省資料、国税庁資料、国土交通省資料
※2026年10月20日現在の公表資料に基づく一般的な説明です。分かりやすさを優先して表現を簡略化しているため、実際の適用には細かい条件があります。個別の事情により取扱いが異なる場合があります。