相続財産を国や公益法人に寄附すると相続税が非課税に|措法70条と令和8年度改正
相続した財産の一部を、国や地方公共団体、公益法人などへ寄附したいと考える方は少なくありません。一定の要件を満たせば、寄附した財産は相続税の課税対象から外すことができます(租税特別措置法70条)。
この記事では、特例の要件と注意点、令和8年度税制改正による見直しを解説します。
どんな特例か
相続や遺贈で財産を取得した人が、その財産の全部または一部を、相続税の申告期限までに次の相手へ贈与(寄附)した場合、寄附した財産の価額は相続税の課税価格に算入しません。
- 国、地方公共団体
- 公益社団法人、公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人のうち、教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定める法人(一定の専修学校を含みます)
- 認定NPO法人(その法人の特定非営利活動に係る事業に関連する寄附に限ります)
政令で定める法人には、具体的には次のものが該当します(国税庁タックスアンサーNo.4141による)。
- 独立行政法人
- 国立大学法人、大学共同利用機関法人
- 地方独立行政法人(一定の業務を主たる目的とするもの)
- 公立大学法人
- 国立健康危機管理研究機構、自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本赤十字社、福島国際研究教育機構
- 公益社団法人、公益財団法人
- 学校法人(学校の設置、または学校及び一定の専修学校の設置を主たる目的とするもの)など
- 社会福祉法人
- 更生保護法人
また、相続財産を公益信託の信託財産とするために支出した場合も、同様に非課税となります。
なお、この特例は「相続人などがいったん取得した相続財産を寄附する」場合のものです。
注意したいのは、相続した不動産や株式を売却し、その売却代金を寄附した場合は、原則としてこの特例の対象になりません。売却代金は「譲渡により取得した財産」であり、相続により取得した財産には当たらないとされているためです。一方、相続した預貯金を払い戻して寄附する場合は対象になります。
主な要件と注意点
1.相続税の申告期限までに寄附すること
寄附は相続税の申告書の提出期限までに行う必要があります。期限を過ぎてからの寄附には、この特例は使えません。
2.相続税の申告書で手続きをすること
相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、寄附した財産の明細書その他財務省令で定める書類を添付する必要があります。これらを行わない場合、特例は適用されません。
3.税負担が不当に減少する場合は対象外
寄附によって、寄附した人やその親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合は、特例を受けられません。
4.寄附後2年以内の要件
寄附の日(公益信託は受入れの日)から2年を経過する日までに次のいずれかに当たると、非課税が取り消され、その財産は相続税の課税対象に戻ります。
- 公益法人など:対象法人に該当しなくなった場合、または寄附された財産を公益を目的とする事業に使っていない(使わなくなった)場合
- 認定NPO法人:認定NPO法人に該当しなくなった場合、または寄附された財産を特定非営利活動に係る事業に使っていない(使わなくなった)場合
- 公益信託:信託が終了した場合(信託の併合による終了を除きます)、または財産を公益信託事務に使っていない(使わなくなった)場合
この場合、2年を経過した日の翌日から4か月以内に修正申告書(または期限後申告書)を提出し、税金を納める必要があります。提出しない場合は、税務署長による更正・決定が行われます。
相続税が非課税でも、所得税がかかる場合があります
相続した土地・建物・株式などを現物のまま法人や公益信託に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡したものとみなされ、寄附した人に所得税(譲渡所得)が課税される場合があります。相続税の非課税と所得税の非課税は別の制度です。
公益法人などへの寄附で所得税を非課税にするには、租税特別措置法40条による国税庁長官の承認が必要です。承認申請書は、寄附の日から4か月以内(寄附した年分の確定申告期限の方が早い場合はその日まで)に提出しなければなりません。なお、国や地方公共団体への寄附は、特に要件や手続きはなく、この所得税はかかりません。
令和8年度税制改正による見直し(専修学校)
学校教育法の改正(令和6年法律第50号)により、専修学校の学習時間の基準が大学などと同様に「単位数」で定められることになりました。これに伴い、この特例の対象となる専修学校の専門課程の要件が次のとおり改められました。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 修業期間を通ずる授業時間数が1,700時間以上 | 修業期間を通ずる単位数が62単位以上 |
この改正は、令和8年4月1日以後に行う寄附から適用され、同日前の寄附は従前どおりです。
公益信託の見直し(令和6年度税制改正・令和8年4月1日から適用)
令和6年度税制改正により、公益信託に関する部分も見直されました。新しい「公益信託に関する法律」が令和8年4月1日に施行され、同日以後に支出する財産から新制度が適用されています。この見直しで、公益信託に支出できる相続財産は金銭に限られなくなりました。
まとめ
- 相続財産を申告期限までに国・地方公共団体・一定の公益法人・認定NPO法人などへ寄附すると、その財産は相続税の課税価格に算入されません。
- 相続した不動産・株式の売却代金を寄附した場合は、原則として対象外です(預貯金の払戻しは対象)。
- 適用には、相続税の申告書への記載と書類の添付が必要です。
- 不動産・株式などを現物で寄附すると、相続税とは別に所得税(みなし譲渡所得)がかかる場合があります。
- 寄附先が2年以内に要件を満たさなくなったり、財産を目的の事業に使わなかったりすると非課税が取り消され、4か月以内の修正申告等が必要になります。
- 令和8年4月1日以後の寄附から、対象となる専修学校の要件が「62単位以上」に改められました。
寄附先が特例の対象となる法人に該当するかは、寄附の前に寄附先へ確認しておきましょう。申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までに寄附を終える必要があるため、早めの段取りが大切です。
参考:租税特別措置法第70条/財務省「令和8年度税制改正の解説」租税特別措置法等(相続税・贈与税関係)の改正 717〜718頁/財務省「令和6年度税制改正の解説」/国税庁 措置法第70条関係通達70-1-6、タックスアンサーNo.4141・No.3108
※2026年10月2日現在の公表資料に基づく一般的な説明です。個別の事情により取扱いが異なる場合があります。