相続時精算課税と暦年課税で年間220万円?併用の条件と選択前の注意点
このシリーズ:第1回:改正の背景 / 第2回:計算と申告 / 第3回:220万円と注意点
相続時精算課税と暦年課税を異なる贈与者について使うと、2種類の基礎控除により年間合計220万円まで贈与税がかからない場合があります。ただし、相続時の扱いまで同じではありません。併用の条件と、選択前に確認したい点を解説します。
相続時精算課税と暦年課税の基礎控除は別に使える
相続時精算課税の基礎控除と暦年課税の基礎控除をそれぞれ適用することで、年間最大220万円まで贈与税がかからない場合があります。
例えば、父からの贈与について相続時精算課税を選択し、父から110万円の贈与を受ける一方、相続時精算課税を選択していない母から暦年課税で110万円の贈与を受ける場合です。
・父からの110万円:相続時精算課税の基礎控除
・母からの110万円:暦年課税の基礎控除
ほかに贈与がなく、父についての適用要件と届出を満たしていれば、この例では合計220万円に贈与税はかかりません。これは2種類の基礎控除を合わせた金額であり、特別控除や他の非課税制度まで含めた贈与全体の上限ではありません。
ただし、同じ贈与者からの贈与について、相続時精算課税と暦年課税の基礎控除を同時に使うことはできません。また、暦年課税の110万円も受贈者1人当たりの年間合計額であり、贈与者の人数ごとに増えるものではありません。
220万円全部が相続税の加算対象外になるとは限らない
上の例で、父からの110万円は相続時精算課税の基礎控除により、父の相続時にも加算されません。一方、母からの110万円は暦年課税です。子が母から相続や遺贈で財産を取得し、贈与が加算対象期間内にあれば、贈与税が0円でも相続税の計算に加算されます。
暦年課税の加算期間は段階的に延長されます。相続開始日が2026年末までなら原則3年、2027年から2030年末までは2024年1月1日から相続開始日まで、2031年以後は原則7年です。相続開始前3年を超える部分については、その期間の贈与額から総額100万円を控除します。この100万円は毎年の控除ではありません。
例えば、2031年以後に相続が発生し、相続で財産を受け取る子が、亡くなった親から相続開始前3年超7年以内に受けた暦年課税の贈与が合計400万円だった場合、この期間分の加算額は「400万円-100万円=300万円」です。相続開始前3年以内の贈与が別にあれば、その分は別途加算します。100万円を各年から差し引く計算にはなりません。
したがって、財務省資料が説明する「年間最大220万円」を活用する際も、贈与時の税額と、将来の相続時に加算される金額を分けて確認する必要があります。
一度選ぶと、その贈与者について暦年課税へ戻れない
改正によって利用しやすくなっても、相続時精算課税を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻れない点は変わっていません。
目先の110万円だけを見て選ぶのではなく、贈与者の財産総額、将来の相続税、今後予定する贈与、贈与する財産の種類などを確認する必要があります。
特に、値下がりする可能性のある財産を贈与すると、相続時には原則として贈与時の価額で加算されるため、結果的に不利になることがあります。一方、将来の値上がりが見込まれる財産では、贈与時の価額で相続時の計算に持ち戻す仕組みが有利に働く場合があります。
また、相続時精算課税による贈与で取得した宅地には、小規模宅地等の特例を適用できません。自宅敷地などは、生前贈与する場合と相続で取得する場合を比較してから判断することが大切です。
土地・建物が災害で被害を受けた場合の特例も新設
相続時精算課税で取得した土地や建物が、贈与後に災害によって一定の被害を受けた場合、一定の要件と手続のもとで、相続税の課税価格に加算する価額から被災価額を控除できる特例も設けられました。
対象は2024年1月1日以後に受けた災害被害で、贈与自体がそれ以前であっても対象になり得ます。贈与日から災害発生日まで引き続き所有していることなどが条件です。被害割合は、土地は贈与時の価額、建物は災害時点の所定の「想定価額」に対して、保険金などを差し引いた被災価額が10%以上かどうかで判定します。
原則として災害発生日から3年を経過する日までの申請と税務署長の承認が必要です。通常の値下がりや老朽化で価額を減額できる制度ではありません。
相続時精算課税を比較・検討したいケース
・親や祖父母から少額ずつ贈与を受け、暦年課税の生前贈与加算との違いを踏まえて検討したい場合
・まとまった財産を早めに次世代へ移したい場合
・今後の値上がりが見込まれる財産を贈与したい場合
・贈与者の財産額や将来の相続税を試算したうえで、暦年課税より有利と判断できる場合
反対に、将来の財産額や贈与計画が固まっていない場合、贈与した財産の価額が下がる可能性が高い場合、暦年課税へ戻れないことが将来の負担になりそうな場合は、慎重な検討が必要です。
まとめ
年間220万円という説明は、異なる贈与者について2種類の基礎控除を使う場合の贈与税の話です。全額が相続時にも加算されないという意味ではありません。暦年課税へ戻れない点や、不動産を贈与した場合の扱いも含め、将来の相続税まで比較してから選ぶことが大切です。
相続時精算課税を利用した生前贈与を検討される場合は、選択届出書を提出する前に、将来の相続税まで含めた試算をおすすめします。ご相談・お見積りは、当サイトの料金見積・相談フォームからお問い合わせください。
このシリーズ:第1回:改正の背景 / 第2回:計算と申告 / 第3回:220万円と注意点
参考資料:財務省資料 / 国税庁資料(制度概要・生前贈与加算・改正のあらまし・小規模宅地の取扱い)
※2026年9月17日現在の法令・公表資料に基づく一般的な説明です。個別の事情により取扱いが異なる場合があります。